――セツナ視点――
いい案内人ができたぞ!
見つけたのは、ギルとかいう青い髪の男。
ちょっと覇気はないし弱そうだけど、これくらいのほうが手綱を握るのにはちょうどいい!
買ってもらったばかりの熱い串焼きをほおばりながら、わたしはギルに笑いかけた。
「この肉はうまいな! わたしもっと食べたい!」
「でも、金が足りないなあ」
「じゃあ、どうやったら金が手に入るのだ!
教えてくれ、ギル! この街で飯とねぐらと金を見つけるにはどうしたらいい!?」
わたしが迫ると、ギルはしばらく悩んでから、答えてくれた。
「魔物退治かな」
ほう、魔物退治か!
わたしは嬉しさではちきれそうだった。
欲しいものが手に入るだけでなく、気に入らなかった魔物たちまでぶっ殺せるなんて!
「魔物退治! すぐに行きたい!」
わたしがそういうと、ギルはわたしに見えないところでとても鋭い目を浮かべていた。
おお、この気迫、もしかしてこいつ本当はもっと強いんじゃないか?
いいな、わたしの横に並び立つならこれくらいでなければ。
「でも、お嬢ちゃんはどうやって戦うんだ?」
「それはだな! ……あ……」
顎に手を当てたギルと視線を交わして、わたしは固まった。
そうだ、キメラの力は使えない。
人間として生まれ変わると決めた以上、人前で魔獣の爪を見せたら正体がバレてしまうではないか。
でも、金とか飯とかを手に入れるには魔物退治をしなければならない。
どうしよう。
「え、えっと……」
「――ああ、いや、今回は俺に任せてくれ。
森の中に行って、代わりに魔物を倒してきてあげよう」
「ほ、ほんとうか!?」
「ああ。その代わり、キミも一緒に来てほしい」
「もちろんだ! すぐに行こう! ギル!」
なんていいやつなんだ! この男は!
よし、気に入ったぞ、いつかわたしがたくさんお金を手に入れたら、こいつにうまい飯をたっぷり分けてあげるんだ。
わたしはあの魔物の連中とは違うのだ。
役に立つ者には、きちんと褒美をやらねばなるまい!
相変わらず、わたしに見えない位置で鋭い目を浮かべているギルに、わたしは喜び勇んでついていった。
人間たちが魔物退治をするのは、若い森の奥深くのほうのようだった。
向かっている途中はわたしの古巣に近づいている気がしてひやひやしたけど、古い森に入る直前でギルは止まってくれた。
「ここから先は危険だからな。このあたりで魔物を探す」
「わかった!」
わたしはいそいそと辺りを見回した。
ここからでもやつらの気配はする。
遠くのほうで動き回っているのを確かに感じながら、わたしは待ちきれなくなって指を指した。
「あっちにいるぞ、ギル!」
直接は見えない魔物たちの気配を視ながら、わたしはギルのほうを振り向いた。
「…………まあ、待て。
魔物は……危険なんだ。
慎重に行かねーと」
そっか、魔物が相手だと人間はたいへんなんだ。
仕方ないな、わたしがギルに合わせてやろう。
「ほら、こっちだ」
待ちきれない気持ちをがんばって押し込めながら、ゆっくりとギルを導いていく。
やつらに気づかれないように、森の中を静かに……。
「……」
おお、ちゃんとついてこれるのか。
ギルは人間なのに、魔物と同じくらいすばやく動くな。
気配の消すのもちゃんとうまい。もしかしてこいつ意外とできるのではないか。
よし、それじゃ戦いのほうはどうだろう?
「ギル。ほら、あそこ」
「……確かに魔物だな。
四体か。よし、お前はここで待ってろ」
「わかった!」
小声で返事して、わたしはギルが飛び出していくのを見守る。
――ギルはすぐに一体をたおした。
「おお!
いけー! ギル、やっちゃえ!」
やっぱり強いじゃないか!
細い剣一本だけでどんどん魔物を切り刻んでいく。
一人で何体も相手にしながらだ。
うんうん、やはりわたしの連れならこうでなくては。
……そこで、ギルがちらちらとこっちを見ているのに気がついた。
なんだあいつ、もしかしてわたしにアピールしているつもりなのか?
ふふん、やっぱりわたしの『擬態』は完璧なんだ。人間の男ですらメロメロにしてしまうとは。
『――セツナ様!? なぜ人間の男と一緒に!?』
そこで、近くに来た一体の魔物から話しかけられた。
『うるさい! わたしは人間に生まれ変わるんだ!
お前たちのことなんか知らない!!』
人には分からない魔物の言葉で言い返し、じっと睨みつけてやった。
わたしはもう魔物じゃない、人間なんだ。
こいつらと同じ世界になんか戻るもんか。
わたしに気を取られている間に、ギルがすぐさま飛んできて、瞬きする間にそいつは倒れる。
攻撃の勢いで宙に浮いたギルと目が合って、わたしはにやりと笑った。
こいつとなら、良い『人』生とやらを歩めるかもしれない。
とても鋭く目を光らせているギルの、獣のように隙のない気配を感じてそう思った。
『――やはり、魔物の遺伝子がどっかおかしいみたいだな!
この裏切り者め! オレが殺してやるよ!』
そう言って牙をむいて来た最後の魔物に、わたしは視線を滑らせた。
あいつはたしかけっこう強かったはず。
ギルには倒せないかも。
でも、魔獣の爪を見せてしまうわけにはいかないし――
……そうだ! ギルに見えないところで殺ればいいんだ!
『こっちだ! ウスノロ!』
魔物の言葉で注意を引いて、走り出した。
やつはだまったまま殺意だけを増して後を追ってくる。
わたしはもうお腹が空いてきたのだ。
早く帰って、お前たちを殺したお金で飯を買ってもらうんだ!
ギルに見られたら困るから、ギルに追いつけないスピードで器用に森の中を逃げ、てきとうなところでわたしは振り返った。
『死ね! セツナ!』
助走をつけたまま思い切り飛びかかってくる魔物。
そいつに向かってわたしは魔獣の爪をあらわにして、口から灼熱の炎をこぼす――。
真っ白な自分の爪が、炎をまとって、真っ赤に染まり、近くの草花がどんどん焼けて黒くなっていく。
肌に心地よいピリついた熱気を感じながら、わたしはその灼熱の爪を思いきり振り落として、大地ごとやつを切り裂いてやった。
全身を三つか四つくらいに分けられて、あっという間に溶けていく魔物。
すぐにそいつはまっ黒な炭みたいになって消えていく……。
よし! これで証拠は消えたぞ!
近くに他の魔物はいないし、わたしが人間に寝返ったと知っている者はだれもいない!
完璧だ!
「おい!! どこに行った!?」
魔獣の爪を元に戻しながら、わたしはギルに返事した。
「わたしはここだ!」
すぐにギルは草やぶの中から現れて、離れたところからまわりを警戒してくれた。
「…………魔物は?」
「えと、あっちのほうに逃げていったぞ!
もう大丈夫だ、ギル!
これで魔物退治はかんりょうだ!」
ふふんと胸を張ってそう答えてやった。
魔物を何体も殺したから、これでお金が手に入るはず。
どれくらいお金がもらえるんだろう。
もしかして、もう自分のすみ家が手に入ったりして!
これから街に戻るのが楽しみだ。
地面を調べているギルが妙ににやけているのを見ながら、わたしは明るい未来を思い描いていた。