やがて剣の波動は弱まっていく。
スロウは、オオォォォォンとわずかに震える剣を握りしめて立ち尽くしていた。
「は、はは……」
スロウの目の前で、気を失って倒れている男たち。
果たして、数時間前の自分は想像できたのだろうか。
自分が、この状況を作り出したということを。
「うっは、まだ頭がグラグラするぜ。
とんでもねえ魔法道具だな」
「まさか、こんなことになるとは……」
後ろでデューイは頭を押さえながら声を出す。
だが、意識を保っていられたのはスロウとデューイだけではなかった。
「貴様ら……!」
酒場の奥の方にいた村長の息子が、どうにかという様子で立っていた。
その顔は忌々しいものを見るかのように歪められている。
「出ていけ! 二度とこの村に戻ってくるな!」
「――ハッ! 言われなくても出て行ってやるよ! 行くぜ、スロウ!」
「そっ、そうだそうだ! こっちだってもううんざりだ!」
勢いに任せて自分も吐き捨てた。
考える前に歩き出して、漠然とした恐怖心を力づくで抑え込む。
こうなったらもう意地だ。
頭の血をぬぐっているデューイよりも前も歩き、酒場を出て、村を出た。
外に出て、二人して小高い丘のてっぺんを目指す。
歩いてる最中は、やってしまった、とか、やってやった、とか、色々な思いが猛スピードで胸中を流れていた。
そうしているうちに丘のてっぺんに到達し、後ろを振り返ってみる。
静かだった。
聞こえるのは涼しい夜風と、虫の音だけだった。
そこには罵声も、怒号もなかった。
遠くの方にポツリと存在するスクルナの村は、本当に小さかった。
「……俺、あんなところでずっとウジウジしてたのか」
「ちっぽけなもんだろ、今まで自分が暮らしてた場所は」
「……ああ、
悩んでたのが馬鹿みたいだ」
秋の風はとても柔らかく、満月の薄明かりの下をどこまでも吹き抜けていく。
撫でるように通り抜けていく風は、スロウをやさしく歓迎しているようだった。
「さて、スロウ。お前はもう自由だ。
あの村にこれ以上こだわる必要はなくなったぜ。
これからどうしたい?」
デューイはいたずらっぽく笑ってスロウの方を見る。
きっとこいつも分かっているのだろう。
自分のやりたいことなんて、決まっている。
「故郷を探したい」
思い浮かぶのは、おぼろげな街の景色だ。
「何度も夢に見た、あの街に行ってみたい」
「くっく、手掛かりはあるのか?」
「まったく無いね。場所はおろか、名前すらも分からない」
「おいおい、そんなんで大丈夫か?」
「なんて言ったってもう自由だからね。無理っぽくてもやってみたいんだからいいだろ?」
スロウはそこで芝居のように大げさなジェスチャーで話し始めた。
「だけど、困ったなあ。
あんまり旅に自信がないし、武器や装備も整ってないや。
どこかに頼れる人がいたらいいんだけど……」
「おお! こいつは幸運だ!
実はこのベテラン冒険者であるオレ様は旅の仲間を探しているところだったぜ」
二人して喉を鳴らしてくっくっくと笑う。
「俺は故郷を探すために」
「オレ様は自由でいるために」
「――よろしく頼むぜ、相棒」