閑話 察知

 スロウが胸元のもやもやを取り除けぬまま足を踏み入れたのは、奴隷市場だった。
 首輪をつけた奴隷と商人が歩いているのを見かけ、ふらふらとその後をついていった先で見つけた場所である。

 いくつものテントが張られ、その中に首輪をつけた男女が値札を張られて立っていた。
 しかし、日が落ちかけていることもあってか後片付けをしているところが大半で、テントの回収や奴隷たちを移動を行っている商人がちらほらと見受けられた。

 奴隷たちの顔を見てみると、その表情も様々で、ひたすらに俯いて耐えるように歯噛みしている者もいれば、無表情で指示に従っている者もいる。

 ――なぜこの場所に来たのかは、自分でもよく分からなかった。
 ぼんやりしながら足を進めていると、人の往来の中にどこかで見たことがある顔が視界に入った。

 しばらくして思い出す。詐欺師の男だ。
 周りを妙に気にしながら歩いている。

 何をしているんだ?

 怪しく思ったスロウは後をつけていった。
 徐々に人数が少なくなっていく通りを、詐欺師にバレないように進んでいく。

 それから数分もしない内にたどり着いたのは路地裏だった。裏口あたりで作業をしている商人らしき男に、詐欺師は話しかけていた。

「戦闘用の奴隷を追加で見せてくれ、こっちも今すぐに使えるものが良い」
「あーもうすぐ夜ですけど、ダンジョンに行かせるので?」
「いや、小娘を一人捕まえるだけだ」

 ――みぞおちに冷たい石を落とされた気がした。
 まさか。

「半獣人の娘でな、ボスが欲しがってる。
 多く払っておくから、このことは誰にも言うなよ」

 すぐに足が動いた。そばに立てかけてあった道具類を倒しながら走り出す。
 後ろで何か叫んでいるのが聞こえたが、無視した。

 セナの身が危ないかもしれない……!