第八十八話 境界線
時は少しさかのぼり―― スロウがマーヤを探しに宿を出た直後、 エフィールは、閉じていたまぶたを開けた。 マーヤと再会する直前、前払いで契約していたこの一人部屋はかつてのハンモックが並ぶ安宿よりも少しだけ整っている。窓には何とも言えない装飾…
魔法道具で得たものは。
第八十七話 応えられるのは
――翌日、スロウはオアシスの近辺を歩いていた。 昨日のあの夕焼け時のような静けさは今はもうどこにも面影が無い。 爛々と照り付ける太陽が昇っている日中、このオアシスの街はすでに普段通りの活気を取り戻していた。何が起ころうと世界は回り続けると…
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第八十六話 シグナル
かつて、エーデルハイドの一族には故郷がなかった。みんなと一緒に各地を流浪する日々を送り続け、どこかに居を構えたことは一度もなかった。『どうしてずっと旅をしているの?』あたしは気になって尋ねた。大人たちはこう言った。『たくさんの人たちを助ける…
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第八十五話 魔法の傷薬
「う、うあああぁ!!」 一瞬のスキを見せたサソリに超速で接近し、剣を突き出す。 そいつの頭部には大きな傷がつき、さらに奥深いところまで突き刺さった。 内部で風を爆散させて無理やり剣を抜いたあと、目の前の巨大なサソリは甲殻の中身をギチギチと喚…
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第八十四話 行き止まり
マーヤと呼ばれた踊り子の少女は、黙ったままエフィールの目を見据えていた。 エフィールは何かを言おうとして口を開いたようだが、そこから言葉が発せられることはなく、やがて……ひどく怯えた表情を浮かべだす。 じり、じりと震える足で後ずさりしたエ…
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第八十三話 巡り合わせ
目を横に向ければ澄んだオアシスの水面がきらきらと反射しており、瞳に爽やかな刺激をもたらしてくれた。 今日は風が無いようで、砂埃がいつもよりおとなしく感じる。店の計らいで設置されたであろうこの布地だけの傘の下でも今だけは十分快適に過ごすこと…
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第八十二話 遺跡
――それから、また同じような毎日を送った。 朝起きたら魔物退治に出かけ、街を探索し、宿に帰って眠る。 そんな日々を何日か繰り返したが、特別大きな異変が起こったということは無く、砂漠の街での日常に少しずつ落ち着いていった。 夜は、エフィール…
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第八十一話 それぞれの道へ
エフィールは、砂漠の言語を勉強し始めた。 彼女はオアシスで涼んでいる褐色肌の人や、重力魔法で遊ぶ魔人たちに積極的に声をかけ、必死で会話を試みている。 長く放浪を続けていたエーデルハイド族は複数の言語を話す必要があったというから、それと同じ…
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第八十話 やりなおし
この数日の間に、ついに稼ぎを見つけることができた。 場所は事前に目をつけていた、あの冒険者と同じにおいを感じるあの建物だ。 やっぱりそこは自分と縁のある場所だったらしい。 ――きっかけは都市の外側を見て回っているときだった。 砂漠の向こう…
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第七十九話 突きつけられた選択肢
翌日はオアシスの都市を散策することにした。 金を稼ぐにしろ、情報収集を試みるにしろ、まずは外に出てみなければ分からない。 涼しく快適な宿の中から出ると焼けるような砂漠の日差しが降り注いでくる。 日陰と日向でずいぶんと気温差があるが、それも…
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第六章 砂漠の大陸編 後編
第七十八話 新しき世界
オアシスの都市は、平たい街だった。 極端な高低差は無く、飛びぬけて高い建物も無く、砂丘と砂丘の間の平地に発展した背丈の低い街だ。 外の強烈な黄金色と比べやや薄っぽい地味な色合いをしていて、目に入る建物はみな同じ色の屋根と壁でできている。そ…
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第七十七話 変異の赤目人
頬にあたる暑い風と、視界に移る砂丘がどんどん後ろへ流れていった。 サァァァと爽やかな音を立てながら砂地を疾走していくのはなかなかに気分が良いものだった。涼しい日陰の内側に座って、前方から流れてくるぬるい風にさらに快楽を見出そうとする。 豚…
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