魔法道具で得たものは。

第五十話 廃都べレウェル

「来たな……」 目の前に広がる景色は、壮観、の一言だった。 まるで天変地異が起きたようだった。 地面がめくれ、城壁が傾き、不均等に反りあがった大地のてっぺんから民家の残骸が崩れ落ちている。 目に映る大部分は薄暗く濡れていて、一切の温もりすら…

第四十九話 語られる人

「よし、そこまでだ。いったん休憩にするぞ」 デューイの指示で剣を止めた。 一息ついてから座り込む。……まだまだ動けるけどな。 最初のころに比べれば、かなり体力がついたと思う。 この特訓も全速力での移動のあとだ。十分余裕は残っている。 座るこ…

第四十八話 語られるもの

「そういえば、なんでベレウェルの黄金剣って最強って言われてるの?」 湿った床にまかれた砂の中で、薪が火を燻ぶらせている。 白い煙がもうもうと立ち上り、天井に空いた穴から抜けていった。 今スロウたちがいるのは、もはや誰も住んでいない廃村だった…

第四十七話 本当の修行

 剣を打ち合う音が響く。 訓練用の木剣なんかじゃない。そんなものはない。 デューイはいつも使っている断切剣を、スロウは同じ能力を使用した切れ味抜群の音叉剣を。 下手すれば簡単に首が飛ぶ本気の特訓だ。今さら段階なんか踏んでられない。 剣を両手…

第四十六話 犯罪者の街 後編

 駄々をこねる少年に言い聞かせるように話しながらふと目線を上げて、言葉を失った。 ボロボロの路地。その影にうっすらと立っていた、小さな家。 ――その中で、剣を抱いて眠る子どもがいた。 体中のいたるところに切り傷が残り、今まさに、オレンジ色の…

第四十五話 犯罪者の街 前編

「これは……」「街……と言えるのか?」 目に入るのは、つぎはぎ・・・・だらけの街並みだ。 割れたガラス窓から風が抜け、崩れ落ちた壁は湿った木材で雑にふさがれている。 寿命を迎えた建物を三日坊主が修復すると、こんな風になるのかもしれない。 そ…

第四十四話 試験

「……あそこに魔物がいますね」 ジャッジが指さす方向には、身体を持ち上げて舌を出す大蛇がいた。 細長い胴体をうねらせて不気味に泥の上をはいつくばっている。 図体はかなり大きく、人間など簡単に丸呑みできてしまいそうだ。 だが何より特徴的なのは…

第四十三話 問題点

 走る。ただ西へ向かい、そこにあるはずの廃都市を目指す。 最初は何もない平原が続いていたのが、途中からぬかるみが増えてきて、次第に重苦しい雰囲気の漂う湿地帯へと変わっていった。もうベレウェルの領域、ということなんだろうか。 風をまとうだけで…

第四十二話 特訓開始

「――では、ここで野営にしましょう」「はぁ……はぁ……きっつ……!」 日が暮れて、足元が見えづらくなってきたころに長身の男が立ち止まった。 途中交代を挟みながら二人で風の能力を使用し、全員で文字通り疾風の如く駆けてきた。 数時間ぶっ通しの行…

第四十一話 今後のプラン

「もう旅に出るのですか?」 外へ続く道の上で、村長はそう言った。「ええ、緊急の仕事ができたもので」 ジャッジの隊長は礼儀正しく頭を垂れる。 あの後――エーデルハイドの魔人と戦ったあと――スロウたちは思い出したように弦楽器の魔法道具を回収し、…

第四十話 緊急指令

「それで? まだやるつもり?」ひざまずいて息を切らすスロウたちとは対照的に、エーデルハイドの魔人はまるで消耗の色が見えない。……浅はかだった。ジャッジが戦っている間に逃げるべきだった。数分前に犯した致命的なミスに歯を食いしばる。この後はどう…

第三十九話 望まぬ戦い

「大丈夫です、まだ気付かれてないみたいです」 突然現れた本物のエーデルハイドの魔人を前に、影から様子をうかがう。 あの偽の魔人が作り出してくれた土の杭のおかげで身を隠すことはできている。 今なら逃げることも、なんなら奇襲することもできるかも…