魔法道具で得たものは。

※初見さんへ※

第四章をオススメします。

途中から入っても分かるように、章の始まりである「第二十五話 次なる街へ」の冒頭部にざっくりメインキャラ紹介とあらすじ、あと作中で出てくる基本設定を簡単に書いているので、もしご興味があればそちらからどうぞ。 by作者

 

あらすじ

記憶喪失の青年スロウは、お世話になっている小さな村の中で言葉にできない居心地の悪さを感じながら日々を過ごしていた。「どこかにあるはずの生まれ故郷に帰りたい」という、いつしか芽生えていた願いを抱えて毎日を耐えていく中、村にやってきた屈強な剣士デューイとの出会いをきっかけにスロウは村を出る決心をする。

故郷へと向かう唯一の手掛かりである魔法道具の剣を手に、スロウは魔物や魔人、そして「水の太陽」と呼ばれる謎の巨大龍が徘徊する外の世界を旅していく。

  •  第一章 旅立ち編
    第一話 とある平原の村で

    「は、はは……」 とある東の平原の、ちっぽけな村の酒場の中。 金髪の少年、スロウの目の前では、村の男たちが皆、気を失って倒れていた。「うっは、まだ頭がグラグラするぜ」 そう言って頭を抑えながら口を開いたのは、大柄で屈強な男。デューイ。 その…

  • 第二話 代弁するもの

     村の中でもひときわ大きい建物からは、酒の匂いがする。 きっと村人いきつけの酒場なのだろう。つくりは他の建物よりも頑丈で押してもびくともしない。 これほどの耐久力なら魔物が押し寄せたときの砦にもできるだろう。 秋の夜は肌寒いからか、木窓はす…

  • 第三話 旅立ち

     やがて剣の波動は弱まっていく。 スロウは、オオォォォォンとわずかに震える剣を握りしめて立ち尽くしていた。「は、はは……」 スロウの目の前で、気を失って倒れている男たち。 果たして、数時間前の自分は想像できたのだろうか。 自分が・・・、この…

  • 閑話 不穏な雨音

    「まったく、ひどい有様だ」 スロウとデューイが出て行ってからすぐ後のこと、 スクルナ村の人々は、少しでも気分を良くしようと酒場で酒を飲んでいた。 乱闘があったために酒場の中は混沌としており、こぼれた酒や汚れたテーブルがところどころに散らかっ…

  • 閑話 海を纏い、空を漂う

    「寝ているやつらを起こして酒場まで連れてこい! 立てこもるぞ!」 村長からの指示で数名が外に飛び出す。 しかし。「うわっ!!」 ランタンを掲げて走っていた者たちに、黒い影が飛びかかった。 村長たちの目にわずかに見えたのは、トカゲのような細い…

  •  第二章 襲来編
    第四話 二十四時間前

     ここはごくごく普通で平和なミスフェルの村。 この村で生まれ育って九年のリリーは、退屈していた。 日が昇り始めた午前中、こうして村の中を散歩しているが、既に知っている道、知っている家ばかり。 もっと新しいものと関わりたいと思うことは、子ども…

  • 第五話 十八時間前

    「ここがリリーの家で、こっちがコルの家! それでねー」「はあ……はあ……ちょっと……待って……」 子どもたちによるミスフェルの案内が始まってから、数時間が経った。 この小さい体でなぜこんなに動けるのだろうか? 子どもの体力って恐ろしい。 ス…

  • 第六話 十六から十二時間前

    「どうしました!?」 緊迫した様子を見て、スロウは危機を察知する。「西南に魔物がいる。こっちにまっすぐ向かってくるぞ。 ここからでも見えるくらいでかいやつだ」「魔物が……!?」 スクルナを出て以来、自分はまだ魔物と遭遇したことがない。今回が…

  • 第七話 直前

    「もう行かれてしまいますか」 朝露が草木を湿らせる早朝。空はどんよりと曇っていた。 まったくの無風状態で、静かな朝だった。 どうせなら昨日みたいに気持ちいいくらい晴れていてほしいものだが、そんなことをぼやいても仕方あるまい。「悪いな、世話に…

  • 第八話 戦闘開始

    「ハリウさん!」「スロウくん! デューイさんも!」 スロウたちがミスフェルに着いたときには、既に村の人たちも異変に気付いていたようだ。みんながみんな、慌ただしく動き回っていた。 雨は降り始めている。「水の太陽が向かってきているのが見えました…

  • 第九話 囮

     バシャバシャと水を立てて村の外側まで移動したスロウ。 教会から対角線上の、最も遠い場所だ。 このあたりでいいだろう。 深呼吸。 銀色に光る剣を掲げる手が震える。 デューイはおろか、加勢してくれる人もいない。 完全に一人だ。 落ち着け、落ち…

  • 第十話 やがて空は晴れる

    「よう、怠けてないでお前も手伝ったらどうだ、スロウ」「足の傷が見えないのか、デューイ?」 座れる場所で村の様子を眺めていると、力仕事に従事していたデューイが戻ってきた。 顔に泥の汚れがついている。 スロウは座ったままで、包帯に巻かれた足を見…

  •  第三章 中都市カーラル編
    第十一話 冒険者

    冒険者とは、大陸の各地に点在するダンジョンを発見、探索し、未知の魔法道具や情報を持ち帰る者たちのことである。現在ダンジョンについて分かっていることは、太古から存在が確認されていること、そして魔物がいるということだ。ダンジョン内を徘徊する魔物…

  • 第十二話 茶色のウサギを追いかけて

    「冒険者にさせてください!」 縦長のウサ耳を頭部に生やした少女が、スロウの隣の受付に詰め寄った。 既にこの時点でギルド内の注目を集めている彼女だが、それでも十分に目立つ格好をしていた。 腰まで伸ばした明るい栗色のロングヘア―に、琥珀色のきれ…

  • 第十三話 夢を追う少女

    「セナ・フラントールです! 西のセトゥムナ連合から来ました」「俺はスロウ、よろしく」「先ほどはお恥ずかしいところをお見せしました……」 セナという名の半獣人の少女は、長い耳をしおれさせている。 現在、二人は商店街に戻って並んで歩いていた。 …

  • 第十四話 不信感

    「今日はありがとうございました!」 日が暮れてきて、高台から下りている道中である。「話を聞いてくれて嬉しかったです!」と、彼女は笑う。「実は、魔法道具のことが好きな半獣人は、わたしの一族しかいないみたいなんです。だからこういう話ができる相手…

  • 第十五話 違法な男

    「しかしまあ、めずらしいもんだ。魔法道具が好きな半獣人なんて」 夜、ギルドから少し離れた場所にある宿屋で、スロウとデューイはそれぞれのベッドに寝転がっていた。 奴隷商人オドンに取引を持ちかけられた後のことである。 結局セナは、少し一人にさせ…

  • 第十六話 クロノワトルの地下遺跡

     岩壁をくり抜いたような道を進んでしばらくが経過。 筒状に続いていた洞穴が唐突に途絶え、前方に光るものが見え始めてきた。「ここが……」 内部は巨大な空洞になっていた。 たいまつをかざしても天井は見えず、足元は崖となって途絶えていた。 そんな…

  • 第十七話 対話

     休憩場所に残された二人のうちの一人であるセナは、首をひねりながら相変わらず杖をいじくっていた。 ルーン文字に反応はなし。解読もしてみたが、「つぐなえ」と書いてあることしか分からなかった。 どうすれば力を見せてくれるんでしょう……。 大げさ…

  • 第十八話 響き、共鳴

     休憩が終わって、三人はまたダンジョンの中を歩いていた。 スロウが見張りに行った時は魔物の気配などまったく感じなかったし、探索を再開した今もそれは変わらない。相変わらず地下遺跡は静かなままだった。 ただ、なんとなく身体が重い、入ってきたとき…

  • 閑話 小さな影

     冒険者の三人組が、クロノワトルの地下遺跡へ入っていった後。 その入口となる洞窟の前に座る聖騎士の男は、あくびを漏らしていた。 鎧の内側に隠した賄賂を何に使おうかと考えていたところで、前方から小さな影が向かってきているのを確認する。 ……な…

  • 第十九話 魔人 前編

     デューイのところに戻ってきたら、案の定あいつはニヤニヤしながら待っていた。 晴れた表情で前を進むセナを尻目に、デューイが小突いてくるのがくすぐったかった。 ちなみに現在は帰り道の途中である。時間的に正午は過ぎていて、デューイいわく初探索だ…

  • 第二十話 魔人 後編

     入口があるはずの崖へ走りながら、疑問に思っていたことを聞いた。「デューイ! さっきの子って何!?」「ああ!? 『魔人』だよ、クソみたいなやつらだ! 水の太陽と同じ、重力魔法を使うバケモンだ!」 デューイは苛立たしげに吐き捨てた。横を並走す…

  • 第二十一話 名も無き奴隷の少年

     そばに着地してきてすぐ、大丈夫ですか!? とスロウの身を案じてきたセナ。そんな彼女に感謝の言葉をかけながら、視線を『彼』に戻す。 鈍い動きで首をさすっていた魔人の少年は、そこに拘束具がないことに気付いたようだ。 何度も何度も確かめるように…

  • 第二十二話 帰路

     既に一行は地下遺跡から出て、中都市カーラルへの帰路についていた。 ダンジョンから脱出した直後、出入り口にはヘンリーさんと似たような軽装備の人たちが集まっていて、壊れたキャンプを回収したり、見覚えのある門番の騎士を治療したりしていた。 ジャ…

  • 閑話 察知

     スロウが胸元のもやもやを取り除けぬまま足を踏み入れたのは、奴隷市場だった。 首輪をつけた奴隷と商人が歩いているのを見かけ、ふらふらとその後をついていった先で見つけた場所である。 いくつものテントが張られ、その中に首輪をつけた男女が値札を張…

  • 第二十三話 小さな決意

    「来たか、セナ・フラントール」 昨日と同じ薄暗い広場で、奴隷商人オドンは影を伸ばして待っていた。 猫耳の女性に連れられてやってきたセナを見て、オドンは腕を広げる。「さあ、答えを聞こうじゃないか」「その前に」 セナは毅然とした態度でオドンの言…

  • 第二十四話 魔法道具で得たものは。

    「ス、スロウさん! 今のなんですか!?」 オドンを吹き飛ばした後に、耳を抑えたセナが詰め寄ってきた。 あの金属音は聴覚の鋭い半獣人にはちょっとつらかったかもしれない。 でも、なんだと聞かれても、正直俺にだって分からない。むしろこっちの方が驚…

  • 設定資料と解説

    ・レオス教とは この辺の設定はこれから煮詰めていくのですが、一つ確定しているのは、「魔法のある異世界の存在が公式に信じられている」点です。以下はとりあえずの仮設定なので、それを踏まえたうえで読んでいただけると幸いです。 正式名エクスレオス教…

  •  第四章 白銀都市アリアンナ編
    第二十五話 次なる街へ

    ※この回から入る初見さん向け・ざっくりメインキャラ紹介 スロウ(主人公、男):記憶喪失の青年。 最終目的は、場所も知らない自分の故郷に帰ること。 そのために記憶を失うまえから持っていた魔法道具「音叉剣」を手掛かりとして旅をしている。 デュー…

  • 第二十六話 白銀都市アリアンナ 前編

    「ふふふ、楽しみですね!」 白銀都市アリアンナへ向かう道中。 既に一行は中都市カーラルを発ち、だたっ広い平原を目的地へ向けて北上していた。 うららかな小春日和のもと、芽を出したばかりの若草が柔らかい風になびいている。こんな日には外で昼寝でも…

  • 第二十七話 白銀都市アリアンナ 後編

    「なんか、聖騎士が多いな」 城下町までやってきた感想がこれだった。 山河に囲まれたこの立体都市に入ってから数刻後、にぎやかな往来の中に聖騎士を見かける頻度が高いと気が付いた。 しかも心なしか、今まで見た騎士たちよりも装備の質が良さそうな気が…

  • 第二十八話 親との再会

    「でっかい部屋だな……」 ベッドに寝転がって上を眺める。凹凸の天井に統一感のある焦げ茶色の模様が続いていて、上にまで絨毯が張り付いてるんじゃないかと思った。 デューイの衝撃の告白の後、聖堂内に設けられていた居住区に案内され、そこで客人として…

  • 第二十九話 仲違い

     その後、デューイとアインズは階段をかなり下りて少し進んだところにあった一室に入ったらしい。 その部屋の前にかがんで耳を澄ませる。今度ははっきりと聞こえた。「デュークガルツ、何だそれは。 ここで酒なんか飲まないでくれ」 ため息が聞こえた。間…

  • 第三十話 気分転換

    「うわ、ねっむ……」 体が異様にだるかった。 でかい窓から差し込む光で目を覚ましたが、気分は晴れない。昨晩デューイと盛大に喧嘩したことが気になっていて、気が付いたら空が明るくなっていた。 しかもただでさえこんな豪華な部屋でくつろぐことに慣れ…

  • 第三十一話 仲直り

     デューイは大聖堂の集会場所にいた。 スロウ達が白銀都市に来て最初に訪れた場所である。あの時は群衆がずらりと並んでいたが、今は閑散としていて、デューイのほかには数人しかいなかった。ただでさえだだっ広い空間がなおさら広く感じた。「……よっ」 …

  • 第三十二話 黒騎士の祈り

     いつからか、家族間での会話が無くなっていった。 父親はレオス教の大司教。 兄は聖騎士団の次期団長。 その二人のもとで育った自分。 二人とも忙しそうだった。 それでも、誇りに思えるほど立派な父ならば、きっと自分たちのことも大切にしてくれるだ…

  • 第三十三話 さび

    「このハーブティー、すごくおいしいですよ」 差し出されたティーカップを近くに引き寄せた。 カップの内側から湯気が立ちのぼる。持ち上げると、甘い香りが鼻孔を刺激した。 あの後――デューイが旅をやめると言ったあと、スロウはセナの部屋を探した。と…

  • 第三十四話 剣を背負って

     日が落ち切ってからさらに数時間以上が経過して、ようやく空がまどろみ始めた。小鳥が鳴き出すこの時間帯は、夜明けが近いにも関わらず、日ごろから小春日和を楽しんでいた者たちにとって少し厳しい涼しさを含んでいた。 しかし、室内ではまだ夜と変わらな…

  •  第五章 廃都べレウェル攻略編
    第三十五話 B級冒険者

     とある小さな街の中にある、木造の冒険者ギルドの扉が開いた。 黒い鎧を着た大男が、客席に座る冒険者たちの嫌味な視線の合間を縫って進む。 途端にカウンターからうんざりとした顔をのぞかせたのは、看板娘も兼任しているという一人の受付嬢だった。 端…

  • 第三十六話 思わぬ再会

    「こんな小さな村までご苦労さまでした。どうぞお休みになられてください。 宿まで私が案内しましょう」 着いたのは、何てことのない、ごくごく普通の村だった。 集落の真ん中に並ぶ民家と、その外側を取り囲む麦畑。さらにその外側を簡素な木の柵で囲んだ…

  • 第三十七話 魔人事件

    「久方ぶりですね。そちらのお嬢さん……フラントール君も」「はい! お元気でしたか?」 高身長の彼は胸に手を当てて、礼儀正しく挨拶をしてくれた。 中都市カーラルで別れて以来だ。奴隷商人を捕まえるのに一役買ったのはずいぶん昔のことみたいに思える…

  • 第三十八話 エーデルハイドの魔人

     魔人、とおぼしき相手はあっさりと見つかった。 さすがエリート部隊と言うべきか、ジャッジ一行はスロウたち冒険者が見つけられなかった痕跡を次々と発見し、順調すぎるくらいに探索が進んだ。 そいつを見つけたのは、深い森の中のさらに奥地まで足を踏み…

  • 第三十九話 望まぬ戦い

    「大丈夫です、まだ気付かれてないみたいです」 突然現れた本物のエーデルハイドの魔人を前に、影から様子をうかがう。 あの偽の魔人が作り出してくれた土の杭のおかげで身を隠すことはできている。 今なら逃げることも、なんなら奇襲することもできるかも…

  • 第四十話 緊急指令

    「それで? まだやるつもり?」ひざまずいて息を切らすスロウたちとは対照的に、エーデルハイドの魔人はまるで消耗の色が見えない。……浅はかだった。ジャッジが戦っている間に逃げるべきだった。数分前に犯した致命的なミスに歯を食いしばる。この後はどう…

  • 第四十一話 今後のプラン

    「もう旅に出るのですか?」 外へ続く道の上で、村長はそう言った。「ええ、緊急の仕事ができたもので」 ジャッジの隊長は礼儀正しく頭を垂れる。 あの後――エーデルハイドの魔人と戦ったあと――スロウたちは思い出したように弦楽器の魔法道具を回収し、…

  • 第四十二話 特訓開始

    「――では、ここで野営にしましょう」「はぁ……はぁ……きっつ……!」 日が暮れて、足元が見えづらくなってきたころに長身の男が立ち止まった。 途中交代を挟みながら二人で風の能力を使用し、全員で文字通り疾風の如く駆けてきた。 数時間ぶっ通しの行…

  • 第四十三話 問題点

     走る。ただ西へ向かい、そこにあるはずの廃都市を目指す。 最初は何もない平原が続いていたのが、途中からぬかるみが増えてきて、次第に重苦しい雰囲気の漂う湿地帯へと変わっていった。もうベレウェルの領域、ということなんだろうか。 風をまとうだけで…

  • 第四十四話 試験

    「……あそこに魔物がいますね」 ジャッジが指さす方向には、身体を持ち上げて舌を出す大蛇がいた。 細長い胴体をうねらせて不気味に泥の上をはいつくばっている。 図体はかなり大きく、人間など簡単に丸呑みできてしまいそうだ。 だが何より特徴的なのは…

  • 第四十五話 犯罪者の街 前編

    「これは……」「街……と言えるのか?」 目に入るのは、つぎはぎ・・・・だらけの街並みだ。 割れたガラス窓から風が抜け、崩れ落ちた壁は湿った木材で雑にふさがれている。 寿命を迎えた建物を三日坊主が修復すると、こんな風になるのかもしれない。 そ…

  • 第四十六話 犯罪者の街 後編

     駄々をこねる少年に言い聞かせるように話しながらふと目線を上げて、言葉を失った。 ボロボロの路地。その影にうっすらと立っていた、小さな家。 ――その中で、剣を抱いて眠る子どもがいた。 体中のいたるところに切り傷が残り、今まさに、オレンジ色の…

  • 第四十七話 本当の修行

     剣を打ち合う音が響く。 訓練用の木剣なんかじゃない。そんなものはない。 デューイはいつも使っている断切剣を、スロウは同じ能力を使用した切れ味抜群の音叉剣を。 下手すれば簡単に首が飛ぶ本気の特訓だ。今さら段階なんか踏んでられない。 剣を両手…

  • 第四十八話 語られるもの

    「そういえば、なんでベレウェルの黄金剣って最強って言われてるの?」 湿った床にまかれた砂の中で、薪が火を燻ぶらせている。 白い煙がもうもうと立ち上り、天井に空いた穴から抜けていった。 今スロウたちがいるのは、もはや誰も住んでいない廃村だった…

  • 第四十九話 語られる人

    「よし、そこまでだ。いったん休憩にするぞ」 デューイの指示で剣を止めた。 一息ついてから座り込む。……まだまだ動けるけどな。 最初のころに比べれば、かなり体力がついたと思う。 この特訓も全速力での移動のあとだ。十分余裕は残っている。 座るこ…

  • 第五十話 廃都べレウェル

    「来たな……」 目の前に広がる景色は、壮観、の一言だった。 まるで天変地異が起きたようだった。 地面がめくれ、城壁が傾き、不均等に反りあがった大地のてっぺんから民家の残骸が崩れ落ちている。 目に映る大部分は薄暗く濡れていて、一切の温もりすら…

  • 第五十一話 攻略開始

     黄金剣の在りかは聞いている。 おそらくは城の内部にあるだろう、とのことだ。 かつてベレウェルの黄金剣は国宝として保管されていたというから、まあ城の宝物庫なんかに残っているのではないか、という予想である。 瓦が剥げた三角屋根に登り、腐りかけ…

  • 第五十二話 高いところ危険

     スロウは崩れかかった城の中に入り、異形の魔物と戦いながら頂上を目指す。 地盤ごと傾いているのか、目に見える景色と足首の角度が一致しない。 平衡感覚が狂って酔いそうになった。 異形の魔物は何体かいて、崩れそうな足場なんておかまいなしに襲い掛…

  • 第五十三話 リベンジ・マッチ

     閃光が空を貫く。 甲高い剣戟けんげきの音が響き、廃墟と化した都市のすき間へ消えていく。 強い風が吹いていた。 仲間が起こしたものか、それとも天気が荒れ始めたのか……両脇にそびえたつ傾いた廃屋から、塵が吹き飛んでいくのが見えた気がした。 冷…

  • 第五十四話 呪われた黄金剣

     風圧に目を細めながら、顔を下へ向ける。 凶悪な角度の下り坂だ、転んだら真っ逆さまに落ちていくかもしれない。 半分四つん這いの体勢になって、さらに上へと足を進める。 スロウたちが戦っていたのは、かつて水の太陽によって「持ち上げられた」という…

  • 第五十五話 淀んだ空

    「その剣、やっぱり黄金剣の力も使えるのね。びっくりしたわ」「……ああ。もう前みたいに一方的にやられたりはしない」 沈んでいく夕焼けを背に立ち、赤い髪を風になびかせるエーデルハイド。 少し息を切らしたくらいに見える相手の様子に、苦い思いを感じ…

  • 第五十六話 覚醒

     視界が、暗い。 さっきまで夕焼けに照らされていたはずの廃都市は、今や冷たい暗闇に沈んでいる。 ひどい雨が降っていた。ザアザアと降りしきる豪雨の中、水面上に深い霧が広がっていく。 そんな中、無数の黒い影が、雨の降る音に混じって蠢いている。 …

  • 第五十七話 枝分かれ

    「――と、とにかく、逃げましょう!」 スロウが使った謎の能力に呆けていたチームは、セナの一言によってようやく動き始めた。 異形の魔物と同じ姿の召喚物に、全員が困惑しながら立ち上がる。 それはすさまじい性能だった。 ベレウェルの黄金剣ですらさ…

  • 第五十八話 ????

     ――ここはどこだろう? スロウは、霧の深いところに立っていた。 目の前には墓標が立っている。 石で作られた、きっととても古いものだ。 下の方は白い花々に埋もれていて、涼しい風に撫でられるように、優しく揺れている。 ぼんやりと顔を上げると、…

  •  第六章 砂漠の大陸編 前編
    第五十九話 漂流 前編

     滴る汗が顎あごを伝って落ち、蒸発していくのをぼんやりと見た。 動かす足は異様に重く、油断すれば滑りそうな黄金の砂地に延々と体力を消耗されながら、歩き続ける。 きっと後ろを見れば地平線の向こうまで自分の足跡が続いているのだろうが、わざわざ振…

  • 第六十話 漂流 後編

    「水……水だ!!」 ――急いでエフィールを背負い、水源へと走る。 近づくにつれてその様子が良く見えるようになり、同時にそれが本物の水だという確信も強くなっていった。 やった! 水だ! 砂地が続いていたはずの足元が、徐々に徐々に固くしっかりと…

  • 第六十一話 小さなオアシス

    「ほら、あんたも食べなさい」 暗くなったオアシスのそばで、唐突に食糧を差し出される。 スロウは、フードを外した状態でぶっきらぼうに渡そうとしてくるエフィールに怪訝な目を向けていた。 魚骨の仮面族を埋葬したあとはオアシスで水分を補給し、気が付…

  • 第六十二話 砂漠の探索

    「ねえ!! なにか見える!?」 ――砂漠に転移してから四日目、空に手が届きそうな位置で雲のように浮かびながら、スロウは遠くから聞こえてくる声を認識する。 下の方を見ると、無限に広がる黄金の砂漠に、ポツリと一人分の影が浮かんでいた。 重力魔法…

  • 第六十三話 収穫ほぼ無し

     山脈だと思っていたものは、山脈じゃなかった。ほぼ垂直に近い崖が城壁のごとくそびえ立つ赤い台地だった。途中からやや傾斜のある地面が続いたかと思うといきなり垂直になったような地形である。 スロウたちは「ようやく着いたか」と言わんばかりにため息…

  • 第六十四話 一番のごちそう

     六日目。 北の方角を調べることにする。 オアシスのおかげで喉の渇きは癒せるが、飢えをごまかすのはさすがに限界になってきた。 まだ暗いうちから二人して目が覚めてしまい、すぐに出発することになった。 広大な砂漠をちまちま歩いていると気が狂いそ…

  • 第六十五話 不気味な砂嵐

     ――北の方角を歩き続けて数時間が経ったころ、天候が怪しくなってきた。 妙に風が強くなってきて、開けていたはずの視界が濁ってくる。 あの抜けるような青空はいつの間にか見えなくなり、吹き荒れる砂塵に危険を感じ始めた。 これは、今までにない現象…

  • 第六十六話 謎の種族

     謎の砂嵐をしのいだ後は、重力魔法での偵察回数が増えた。 もうすでに予断を許さない状態に陥っている。確認できたわけではないが、拠点としていたオアシスは無くなっている可能性が高い。背水の陣とはこういう事態を指すのだろうか。 わずかな手がかりも…

  • 第六十七話 豚人族の集落

     着いたのは、巨大な地下空洞の内部だった。 赤茶色の岩壁に囲まれた洞窟を抜けたあとに広がるのは黄色い遮光の差す地下空間で、天井を支える大きな岩の柱が乱立している様子はまるで巨木の大森林のようだった。外の砂漠とは違って暗がりが多く、目に優しい…

  • 第六十八話 生存戦略

     地面から伝わってくる熱に手をかざしながら、スロウはほっと一息ついた。 外はすでに夜が訪れており、地下空洞の天井に空いたいくつもの穿孔から冷たい月光が差し込んでいる。 豚人族によって音叉剣が回収された今、夜の寒さをどう乗り越えようかと不安に…

  • 第六十九話 新生活

     砂魚の狩りは、最初の数日こそ苦労したもののパターンを覚えた後は楽になった。 こいつらは背後から獲物を襲う習性があることに気づき、それを利用してわざと隙を見せる。 もちろん、他の豚人族の武器が届く範囲でだ。それによって倒された砂魚はスロウの…

  • 第七十話 転機

     そいつを目撃したのは、今日も狩りに参加しようと井戸の前に集まったときだった。 常連の豚人族が集まる中、一人だけ突出して背の高い男がいたのである。 豚人族の者ではない。転移してから最初に出会ったあの魚骨の仮面族とも違う。 間違いなくスロウ達…

  • 第七十一話 追放者メレクウルク

    「しかし、意外だったぞ。まさかこんなところで同郷の者と出会えるとはな。 貴様もダンジョンから抜け出してきたのか?」「いや、はは……」 意味が分からず、上機嫌な様子で話しかけてくる男に曖昧な返事をよこした。 狩りが終わり、豚人族が縛りあげた砂…

  • 第七十二話 罪人の呪い

    「さっきも言ってたよな、メレクウルク。 確か、あなたは『追放者』だって。 それについて教えてほしい」「……いいだろう。 追放者とは、イストリアで大きな罪を犯し、別の異世界へと追い出された罪人たちの名称だ」 メレクウルクは一転して険しい表情で…

  • 第七十三話 熱砂での問答

    「――この砂漠は、ひとつの巨大な大陸として地の果てまで続いている」 メレクウルクは、眼前に広がる砂漠を眺めながら言った。 左腕にはめられた腕輪の魔法道具のおかげか、この男は汗もかかずに砂丘の上に立っている。 スロウは相も変わらず強烈な日差し…

  • 第七十四話 神とされたものたち

    「エレノア・ルクレールって、どういう存在なんだ?」 その問いに、メレクウルクは神妙な面持ちになった。 メレクウルクは日陰に入るか入らないかの、微妙な境界線に立ったまま腕を組む。 よく見ると頭の裏のあたりが思いっきり日に当たっているが、腕輪の…

  • 第七十五話 旅の準備

     旅をするに当たってまず準備したのは、食糧と水だ。 食糧に関しては干されたヘビ肉を買い込むことにする。今のところこれ以外に保存が効きそうなものはない。以前に食べたことはあるが、味がイマイチなことを思い出してしばらくはうまいものは食えなさそう…

  • 第七十六話 再会へ向けて

     いつの間にか笛の音も遠ざかり、もう既に暑さも、砂のにおいも感じない。 唐突に暗闇に放り出されたような感覚だ。笛を握っていたはずの両手は空をきり、足元はふわふわと地に着かないようだった。 成功したのかな……ん? ――暗闇の向こうに、かすかな…

  • 第七十七話 変異の赤目人

     頬にあたる暑い風と、視界に移る砂丘がどんどん後ろへ流れていった。 サァァァと爽やかな音を立てながら砂地を疾走していくのはなかなかに気分が良いものだった。涼しい日陰の内側に座って、前方から流れてくるぬるい風にさらに快楽を見出そうとする。 豚…

  •  第六章 砂漠の大陸編 後編
    第七十八話 新しき世界

     オアシスの都市は、平たい街だった。 極端な高低差は無く、飛びぬけて高い建物も無く、砂丘と砂丘の間の平地に発展した背丈の低い街だ。 外の強烈な黄金色と比べやや薄っぽい地味な色合いをしていて、目に入る建物はみな同じ色の屋根と壁でできている。そ…

  • 第七十九話 突きつけられた選択肢

     翌日はオアシスの都市を散策することにした。 金を稼ぐにしろ、情報収集を試みるにしろ、まずは外に出てみなければ分からない。 涼しく快適な宿の中から出ると焼けるような砂漠の日差しが降り注いでくる。 日陰と日向でずいぶんと気温差があるが、それも…

  • 第八十話 やりなおし

     この数日の間に、ついに稼ぎを見つけることができた。 場所は事前に目をつけていた、あの冒険者と同じにおいを感じるあの建物だ。 やっぱりそこは自分と縁のある場所だったらしい。 ――きっかけは都市の外側を見て回っているときだった。 砂漠の向こう…

  • 第八十一話 それぞれの道へ

     エフィールは、砂漠の言語を勉強し始めた。 彼女はオアシスで涼んでいる褐色肌の人や、重力魔法で遊ぶ魔人たちに積極的に声をかけ、必死で会話を試みている。 長く放浪を続けていたエーデルハイド族は複数の言語を話す必要があったというから、それと同じ…

  • 第八十二話 遺跡

     ――それから、また同じような毎日を送った。 朝起きたら魔物退治に出かけ、街を探索し、宿に帰って眠る。 そんな日々を何日か繰り返したが、特別大きな異変が起こったということは無く、砂漠の街での日常に少しずつ落ち着いていった。 夜は、エフィール…

  • 第八十三話 巡り合わせ

     目を横に向ければ澄んだオアシスの水面がきらきらと反射しており、瞳に爽やかな刺激をもたらしてくれた。 今日は風が無いようで、砂埃がいつもよりおとなしく感じる。店の計らいで設置されたであろうこの布地だけの傘の下でも今だけは十分快適に過ごすこと…

  • 第八十四話 行き止まり

     マーヤと呼ばれた踊り子の少女は、黙ったままエフィールの目を見据えていた。 エフィールは何かを言おうとして口を開いたようだが、そこから言葉が発せられることはなく、やがて……ひどく怯えた表情を浮かべだす。 じり、じりと震える足で後ずさりしたエ…

  • 第八十五話 魔法の傷薬

    「う、うあああぁ!!」 一瞬のスキを見せたサソリに超速で接近し、剣を突き出す。 そいつの頭部には大きな傷がつき、さらに奥深いところまで突き刺さった。 内部で風を爆散させて無理やり剣を抜いたあと、目の前の巨大なサソリは甲殻の中身をギチギチと喚…

  • 第八十六話 シグナル

    かつて、エーデルハイドの一族には故郷がなかった。みんなと一緒に各地を流浪する日々を送り続け、どこかに居を構えたことは一度もなかった。『どうしてずっと旅をしているの?』あたしは気になって尋ねた。大人たちはこう言った。『たくさんの人たちを助ける…

  • 第八十七話 応えられるのは

     ――翌日、スロウはオアシスの近辺を歩いていた。 昨日のあの夕焼け時のような静けさは今はもうどこにも面影が無い。 爛々と照り付ける太陽が昇っている日中、このオアシスの街はすでに普段通りの活気を取り戻していた。何が起ころうと世界は回り続けると…

  • 第八十八話 境界線

     時は少しさかのぼり―― スロウがマーヤを探しに宿を出た直後、 エフィールは、閉じていたまぶたを開けた。 マーヤと再会する直前、前払いで契約していたこの一人部屋はかつてのハンモックが並ぶ安宿よりも少しだけ整っている。窓には何とも言えない装飾…

  • 第八十九話 啓示

     スロウはマーヤとの話を終えて……エフィールがいるはずの宿へと足を向ける。 途中で露店を見つけたので、あいつも腹を空かせているだろうと思い、 団子状に丸められた焼き料理を二人分購入。 これは味は薄いがなかなかに腹持ちがいい。 大きな葉で包装…

  • 第九十話 選びなおし

     砂丘をいくつも超えた先に、あのサソリ型の魔物がいた。 やつは蜃気楼に揺らめきながら長い尾を立たせ、複数ある脚の何本かを欠けながらも悠然と歩行している。 ――目的の魔物の姿を確認した異種族たちの一行は、慎重に足を進ませていく。 その中には、…

  • 第九十一話 芽吹き

    「――とりあえず、買うものは決まったわよね」 砂塵が舞う市場の往来を進みながら、彼女が言った。 影が無くなるような強い日差しの下、エフィールは何かの動物の素材を使った革袋を下げながら、これから買い揃える物品を諳そらんじている。 必要なのはす…

  • 第九十二話 取引

    「――――」「……いいえ。気持ちはうれしいけど、戻るわ」 少し離れたところで、エフィールがベールを被った少女と手をつないでいた。 あの踊り子のような風体の子はたしか、マーヤと言ったか。 少しうつむいているところを見るに、もしかしたら泣いてい…

  • 第九十三話 砂嵐の塔

     ――ようやく、たどり着いた。 ついに水も食料も尽きようかという時に、自分たちはそれを見つけた。 舟を停めて、小さな砂丘を登り、そのてっぺんから確認する。 竜巻のようにそびえ立つ、砂嵐。 その薄茶色の雲の粉塵が螺旋らせん状に巻き上がり、そし…

  • 第九十四話 やくそく

     気が付いた瞬間には、見覚えのある墓地に立っていた。 真っ白な花畑が地平線上にずーっと広がる、涼しい空間。 墓標の上を霧が揺蕩う、幻想的な景色。 足元に触れる、柔らかい花の感触。 今回は、割と意識がはっきりしていた。 確信めいたものを感じな…

  •  第七章 セトゥムナ連合編
    第九十五話 久々の対人戦

    「頼む! いま奴隷に落ちたら、私の家族が……!」「知るかよ! お前たちは『決闘』に負けたのさ! 敗者は勝者の下につく……それがルールだろうが!!」 追われていた方の半獣人たちが乱暴に取り押さえられ、手錠らしき拘束具をつけられていく。 彼らは…

  • 第九十六話 歓迎

     ……なぜか、周囲に侍るのは猫耳の美少女たち。 目の前に広がる、肉類を中心とした豪勢な食事に目を丸めつつ、やたらと肌を密着させてくる猫耳の娘たちにキョドりまくる。「ささ、あなた方は私たちの恩人ですから。 どうぞ、くつろいでくださいませ」「……

  • 第九十七話 今後の方針

    「ちょっと」 茫然としていると、裾を引っ張られる感触がした。「兎人族って言ってたけど、あんたが探そうとしてるのってあの兎の子なのよね? しっかりして。 まだ取り返せないって決まったわけじゃないでしょ」 小声で耳打ちしてくるエフィール。 そこ…

  • 第九十八話 序列第十位

     爽やかな風が吹き抜ける、早朝の大森林。 樹上に組まれた猫人族の里から降りた俺たちは、その大地の上に立って相手が来るのをじっと待っていた。 土気色の広場の真ん中で堂々と仁王立ち……というわけでもなく、俺と族長が並んで打ち合わせをしているよう…

  • 第九十九話 光明見える

     決闘に勝利し、諸々の要求をしに猫人族の族長とともに歩いていく。 向こうの代表らしき相手は、三十代かそこらの壮年の男だった。 ドランドランは「細い男」というふうに表現していたが、俺からすればこの人も十分でかい。 熊人族に特有なのであろう丸い…

  • 第百話 あの少女の動向

     熊人族の里は、徒歩で数時間のところにあった。 既に時間は正午過ぎ。 早朝の決闘から日は昇って、鳥や虫の鳴き声が響き始めた豊かな大森林を進んでゆき……。 そうして見えてきたのは、規模の大きな集落だった。 広い畑、入り口のでかい家、巨大な食糧…

  • 第百一話 出発前夜

     その後は、けっこう事務的な話をすることになった。 フラントールの一族の代理決闘者となることを決めた以上はちゃんと話をしておかなければなるまい。 猫人族から兎人族への鞍替えという形になるので罪悪感があったが、その旨を正直に伝えると意外にもあ…

  • 第百ニ話 フラントールの里へ

     苦労人の熊人や猫人族の族長、そしてドランドランの面々から見送られ、朝露で湿ったセトゥムナの大森林を進んでいく。 メンバーは俺、エフィール、ブレアさんの三人。 フラントールの里へは、歩いておよそ二、三日ほどかかるそうだ。 直線距離にすればそ…

  • 第百三話 待ち望んだ再会

     ――セナ視点――「……もう、そんなに謝らないでください! 私の方が軽傷なんですから。 辛いときはみんなで支え合わないと」「すまない……セナ……。 くそっ、やつら闇討ちまでしてくるなんて……!」 松葉杖を携えたおじさんが、椅子に座ったまま悔…

  • 第百四話 懐かしい顔

     ――スロウ視点―― とりあえず、話はあとだ。 まずは、この序列の七位を倒す! いまだ状況がよく分かっていない様子の相手に、問答無用で飛び込んで攻撃を加える。 割り込みに文句を言わせる時間は与えたくない。 風をまとって、下から音叉剣を振り上…

  • 第百五話 顔合わせ

    ――セナ視点―― ……ゆっくりとまぶたを持ち上げて、わたしはぼんやりと天井をながめた。 なんだか重く感じる腕を額に当てて、もういちど心地よい暗闇の余韻にひたろうとする。 ……あれ…… そういえばわたし、スロウさんと再会できたはずじゃ――。 …

  • 第百六話 目指す場所

     ――スロウ視点。 今後の目的を整理しよう。 まず、当初の目的だったセナとの合流は果たせた。 砂漠の大陸から戻ってきてからずっとそれを目指してきてようやく達成できたわけだが、あと一人、再会しなければならない仲間がいる。 湾曲した大剣を扱う剣…

  • 第百七話 雨宿り

     みずみずしい森のにおいに包まれながら、豊かな緑のなかをゆっくりと進んでいく。 林の奥から流れてくる風は柔らかく、半袖という服装だと肌寒さすら感じさせるほどだ。 頭上の枝葉に遮られたわずかな陽だまりに安らぎつつ、遠くから耳に届いてくる鳥の鳴…

  • 第百八話 森林学院

     数時間をかけてたどりついた森林学院は、暗がりの多い場所だった。 やや薄暗い樹海に入って、やがて見えてきたのは巨大な樹木。 セトゥムナの大森林でも頭ひとつ抜けて背の高いと分かるその樹のてっぺんはまるで見通せず――。 巨人が大縄をよりあわせて…

  • 第百九話 手がかり

    「……なるほど、それでキミの生まれ故郷のことを知りたいと」 イズミルにひととおり自分の境遇を説明したあと、狭い研究室内で自分は頷いた。「はい。そこに戻るための手がかりならなんでも」「困ったなあ……僕はあくまで文化研究者であって、『異世界渡り…

  • 第百十話 弱肉強食

     多くの扉でひしめいていた大樹の内側を後ろ髪を引かれるような思いで後にし、イズミルとともに外へ出る。 室内から屋外へ出た瞬間にだけ味わえる爽やかな茎をたっぷりと堪能しながら出入口の門番に挨拶とお礼を伝え、一行いっこうはフラントールの里へと戻…